満月亭小駅20話から最終26話までの覚え書き

■第20話  焼けてしまった満月亭

焼けてしまった満月亭、ライルは養鶏場の世界で途方に暮れていた満とさかながライルを見つけると彼は無表情に近い顔で涙を流す、それが満の記憶にある135の姿に映る。

ep:ドンの一言「おお、毛だらけ2人、こいつ元気がない、やっつけてもおもしろくない、なんとかしろ。」

3人は養鶏場で一夜を明かすことにする、無表情だったライルの顔が落ち着いてきたのか普段の様子になってくる。ただ、ひどく落ち込んでいる。2人はいったいなぜ火事になったのかライルに聞くが、ライルもわけが分からない様子で、その日の夜に2階で寝ていたら火が回ってきたので、取るものも取らずスラッシュの回廊に逃げ込んで、しばらくして見にくれば満月亭は全焼していた、とここまで喋った。

翌朝に焼けた満月亭になにか残っていないかを調べる。さかなの部屋は、地下のスラッシュの回廊にあるので助かっているが、満とライルの物や、家財は殆ど焼けていた。

ep:「薬品・・」満は、自分の実験室が火元だと気がつく。薬品が古くなってなにがしらかの反応が起こってしまったのだ。この薬品とは、ガロデベルタの羽根を保存するための薬品なのだ。ということは、満月亭の貴重な現金収入はもうなくなってしまったということになる。
ただ、満は薬品が原因ということは皆にはだまっていた。

これからどうしょう?と3人は相談を始める。
さかな「どうですか、私の故郷にパンプエールにきませんか?ここからだと相当遠い国になりますが、気候もおだやかで住み良いところです。2人なら歓迎します。それにライルだって学校に通える、友だちもできる。」
満とライルは無言だ。満はだまってライルを見る。

ライルは反発する。
「ぼくはここにいたい!」
さかなは、意外な返事に驚くが落ち着いて聞いてみる。しかし、満が制止する。
「すまん、ライルと話しをさせてくれ‥‥。」

■第21話  満とライル

「ライル‥‥」
満は重たく口を開く。
「お前は、覚えているか。」
その昔ライルとその仲間を満月ヶ原の遺跡の奥で見つけたこと。そのライルたちを調べていくうちに5万年前の文明の力をもった、しかも「時間」に関する能力を持ったものと分かる。

 ◇この時点では、「太古の遺跡から出て来た未知の力を持っている人」ぐらいの認識。

満もいわゆる「太古考古学」の学者だったのだ。

  ◇発見のシーンはもっと詳しく

世の権力者が、その力を利用しようとするが、その仕組みを理解することが叶わず、そのうちにこの遺跡からでてきた得体の知れない『何か』を危険視するようになる、折しも世界恐慌の時それが遠因で世界戦争が起こった。文明を栄華に導いた科学が生み出した負の遺産である強力な兵器が疑心から暗鬼に染まる人の心を焼きつくさんばかりに使われ、そしてこの世の人口が半分になるまでそれは続いた。これが、いわゆる100年前の大戦だ。その時代の流れのうちライルたちの仲間に通し番号(総数256)が打たれ「被験体」としてさまざまな実験に臥される事になる。過酷で残酷な実験の内、仲間は次々と死んでいった。満は戦時の混乱の中、被験体の最後の一人を救いだす。その番号は135、ライルの昔だ。満は凄まじい後悔とともに135と逃避行をする。そして感情を失った子を連れている内にある変わったことに序序に気付く。

この子は成長しないのだ。まるで時間が止まったかのように。

その事がさらにはっきりする時間が経つと、もう1つの事に気がつく。
自分も一般とくらべて年を取らないのだ。同じ年に生まれた仲間が老いて死んでいくのに、自分の姿が異様なほど若い。時を司る『何か』の子に影響されたと仮定するしかないし、それが正しかった。
それから、2人は何年かおきに住む街を変えていったがその当時身体の弱かった135にとってそれはつらいものだった。普通の病院に連れていけるはずもなく、満は定期的に昔の仲間の医者のもとに135を連れていくことになった。

ある時にその仲間の医者からこう勧められた。
「この子が見つかったあの満月ヶ原に行ってみれば、この不可思議な現象の謎がわかるかもしれない。」
満にとっては、満月ヶ原とは135を見つけてしまった原罪の地であり忘れ去りたい所でもあったが、この尋常でない自分の身体と少年を隠す場所であり、自分の所為で過酷な運命を辿らせた子に対する償いをする為に彼の地に向かう決心をする。
戦時の折に布設された北方の要塞に物資を輸送するだけのさみしい鉄道(満月ヶ原鉄道)に乗って行き着いたのが広大な草原のほぼ中央に位置するただ1つの中継駅「満月ヶ原駅」だった。そこには今ではだれも使っていない家屋があり、2人はここで月1回の便でやってくる仲間の援助で生活を始めることになる。

満は満月ヶ原を歩いて遺跡の中からなにがしらかの手がかりを探そうと探索の日々を送った。ある日の事、満が帰ってくるといつも椅子に座って静かにしている135の姿が見当たらない。心配になって探せば、彼はこの家屋の地下室に一人である壁を見つめて立っていた。

・時空回廊が135の力に因って開く、135に連れられてその奥に満が135を発見した時と同じ状態で眠っている少女を見せられる。(橙色の石の中に)

・ただ、少女が入っている容器の石化が激しく下手をすると少女もろとも壊れてしまう危険があった。

・満はなんとかしてこの少女を救いたいと思う。同じ種族ならばこの時間の止まった135と同様に時間に関する力を持っているに違い無いと思う。このままにしておけばいつ壊れてしまうか分からないのだ。

・いかんせん、方法が思いつかず悩むことになる。

満にはすこしずつ時間が流れ年を取っていった。135は長い時の中、少しづつ感情を取り戻していった。それにつれて満はもう長い間(呪われた番号「135」と呼びはしないが)、彼に名前というものがなかったのに気がつく。そこで、彼が時々駅のプラットホームで座って線路を眺めている姿から満は「ライル」と呼ぶようになる。それは満の国の言葉で「線路、道すじ」というものだった。

彼を名前で呼び出してから、彼の回復は凄まじかった。

見た目は11、12才の少年で満を親の様に慕った。そんな満も自分の息子のように彼、ライルを愛した。
元は、後悔と贖罪の意味で連れたライルだったが、このような癒される日々がくるとは満は想像もしなかった。
時空回廊の浅部で見つけた別の世界、野山があり河があり森がある世界にニワトリを放した。生活物資は遺跡から拾ってこれた。自給自足の生活ができるようになってきたのだった。



■第22話 満月亭の出来た日

ライル(ちょっと服装が違う)が家から(満月亭だが、今は名もない満のライルの家)出て来た。黄昏れ時の満月ヶ原は夕闇が迫っていた。家の裏に配線パイプが何本か走っていてそれはシートを被せたなにかの下に繋がっていた。ライルはそれを剥ぐ。現れたの「燈台砲」だった。
満の帰りが遅い時に、家の位置を教える為、あと時間を知らせるために打ち上げているものだった。もともとは大戦時の空中戦艦の軽レーザー砲なのだが、出力を落して「燈台」にしたものだった。
静かな高い音が響いてエネルギーが充填されてきた。制御盤の信号が赤から黄色になった時ライルはスイッチを押した。白い光が空に突き刺していった。

ライルは仕事を終えて家の中に入っていった。そしていつものように夕餉の支度を始めた。しばらくするとドアをノックする音が聞こえた。ライルは満が帰ってきたものを思って台所から「おかえりなさぁい!」と大きな声でいった。しかし、またドアをノックする。奇妙に思ったライルは玄関に行き、ドアを開く。
そこには、人の善さそうな夫婦と8つぐらいの女の子がいた。
「さっきの光りはここからだったんじゃろうか?」
聞けばこの親子、北の要塞の梺の村から親戚たよりに都会に行こうしたが、鉄道に乗る路銀がなく馬車で南に線路伝いの旅をしているというのだった。(正確に言えば、汽車に金を使うよりは馬車で旅した方が安上がりだ、ということ)ライルにとってはこの家にやってきてからの初めてのお客だった。いつもは満がいてくれるのだが、ただいま留守。ライルは自分でなんとかしなければいけないのだ。
「あ、あの、どうぞ。」
満からはもし旅人がやって来たら迎えて持て成して差し上げなさい、と言われていた。
ライルは考えて考えて、取りあえずは今作っているにわとり料理を「お客さま」に出すことにした。自分たちがいつも食べている食事の中でも1ランク上のごちそうなのだ。満にはいつも「うまい」と言ってもらっているから、多分良いだろうと思ってライルは夫婦と子どもをテーブルに着かせた。
「うぁ、こりゃぶちうまいのぅ!」
「ほんと、これあたしが作るよりおいしぃかもしれん!」
夫婦は大袈裟でなし本気でライルの料理を誉めた。女の子もにこにこしながら食べている。満に誉められたら嬉しい気持ちになるが、こんな初めて出会ったお客に喜んでもらえるとまた別の違った気持ちで嬉しくなる、とライルは感じた。調子に乗ってライルはにわとりを放している世界(いわゆる養鶏場の世界)で育てた野菜やら釣ってきた魚をみんな料理して大盤振る舞いした。テーブルの上に乗り切らないほどの皿の数になってしまった。樽の中にぶどうを入れてつぶしてほったらかしにしただけの酒もだした。
夫婦は大喜びだ。

「おお!御主人が帰ってこられた!ああ、あんたは良い息子さんをお持ちだ!」
家の前に馬車があったら客人(これを『まろうど』と読んだ人、すごい)が来ていたのは察しがついたが、まさかこんなに大宴会になっているとは思いもよらなかった。満は、「息子さん」という言葉に苦笑いしたが男に腕を引かれるまま席について酒をあおった。
「ライルー!ラーイール!」
満は台所のライルを呼んだ。お客は喜んでくれているみたいだし、それはとても良いことなのだがそれにしてもこの料理の品数の多さはいったいなんだ、ちょっと控えなさいと言おうと思った。
「はーぃ。」
奥から出てきたライルを見て満は驚いた。いままで見せたことのないようなはじけたような笑顔だったのだ。ただ、妙に顔が赤く「ひょっとしてこいつ、酒飲んだな?」という感じだった。そう思うと満も思わず吹き出してしまった。心の底から笑ったのは、もういつくらい前だったろう?満はライルに言った。
「ライル!」
「はーぃ?」
「どんどん料理持ってきなさい!」
「はーい!」
そして材料がなくなるまでこしらえたライルはテーブルにつくと一緒に飲んで食べた。男も満も出来上がってきたが、満は時々ちらちらとライルを見て、その表情に喜びを噛み締めた。

「うわぁ、満月。」
母親の横にいた女の子が窓の外を指さした。すでに日は落ちて真っ暗になった夜空を銀色に照らす見事な満月がそこにあった。
「満月ヶ原って、満月が一番きれいに見えるから満月ヶ原っていうのかねぇ。」
母親がしみじみ言った。酔っぱらった満と男は、2人して窓の外の満月を眺めた。
「満月があるから満月ヶ原。満月があるから、この宿は満月亭だな!」
男が少し呂律のまわらない口調で呟いた。
「宿?満月亭?」
酒を飲んで真っ赤な顔になったライルが頭を上げて上気した。
「満月亭?」
窓の外の満月を見た。
「満月亭?」
料理の皿でくちゃくちゃになったテーブルを見た。
「満月亭?」
満を見た。
「満月亭?」
急に酔いの眠気がきた様子で長椅子に横になったライルは「満月亭・・」と呟きながらいびきをかいて眠ってしまった。

それが、満月亭の「始まり」だった。


焼け落ちた満月亭に場面は移る。
老いた満は、静かにため息をつく。ライルは泣いていた。


■第23話  時空回廊

 ・さかなに満がライルの事を話す。
 ・にわかには信じられない話だが、さかなもライルが妙という事には薄々感じていた。
 ・そして満自身ももうすでに尋常でない年月をすごしているという事も告白する。
 ・さかなにもその影響が出ているのだが、まだライルといた時間が少ないからわからない。

さかなはどうしていいのかわからなくなる。自分は太古考古学の学者だが、その秘密の確信といままで一緒に家族のように暮らしていたのだ。

「ライルはここにいるしかないのかもしれん。」
「ただ、わしには少しづつ時間がたった、こんなヒゲだらけの老人になってしまった。そしていずれは死ぬ。」
「わしがいなくなっても、あいつはあの姿のままその世界に居続けなければいけない。」
「あいつの時間を進めてやりたい。」
「ただ、ただ1つの可能性があるのだが・・」
(地下のソレアの事だ。)
「彼の仲間が1人でもいれば、ライルの時間は進みだす・・・・」
「今まで研究してきた全てのものが、燃えてしまった。もう、わしが生きている時にはそれを叶えてやる事はできない・・・。」

「さかな!わしはお前にどうにも願いできないが、せめてライルをライルを‥
言いかけて満は止める。さかなに自分の犯した罪を引き受けさせるわけにはいけなかった。
「わしはどうしたらいいのだ‥‥」

さかなは黙っている。事の重大さを感じて絶句した。
「満さん‥‥」

さかなは立ち上がって言った。
「とにかく、とにかくこの満月亭を建て直しましょう!なに、材料だっていくらだってあるんです。新しい満月亭を建てて、建てて‥‥今まで通りに‥‥」(※20話と矛盾がある、注意)
「そんなこと‥‥」
と満が言おうとしたら2人の後ろから突然
「そんなことしたら、さかなさんも、さかなさんも苦しまなくちゃいけない!満じいみたいに‥‥!」
ライルが叫んだ。
ライルは、満が『時間の牢獄』に苦悩していることにとうに気がついていたのだ。
いや、ライルは全てを覚えていたのだ。満は目を見開く。
ライルは走って焼けた満月亭に飛び込んでいった。
「ライル!」
二人はライルを追う。時空回廊の中を走る。いつもの養鶏場への道の途中に鍵がかかった扉があったが開いている。下に向かう階段、それは時空回廊の深部へ続く道だった。

■24話 終わった世界

階段を降りる満とさかな、ライルはこの下に降りていったにちがいない。
光る苔が通路に増えてきた。不思議な通路だ。
三叉路に出くわすが、満が落ち着いて案内する。
「昔、わしはここを探索した。」
「ここには、ライルが生まれた時代の残骸がある。」
 「ライルの生まれた時代?それは‥‥」
「今から、5万年前、世界中の遺跡と言われているものが蠢いていた時代じゃ。」
 「ご、5万年?蠢いていた??」
さかなが求めていた学問の答えがそこにあったのだ。そういえば、満の蔵書のほとんどがこの「太古考古学」に関するものだったのだ。なんてことだ!自分が住んでいた家の下に答えがあったのだ!さかなは興奮したが、今はそれどころではない。ライルだ、ライルを探さないといけない。
「ライルは‥‥あの部屋にいる。」

満はさかなを連れて、あるドアの前に立った。少しだけ開いていて、中から緑色の光りが見える。
「ライルがこの時空回廊を初めて開いた時、わしを連れてきたのが‥‥」
満は扉をひらいた。
「な‥‥!」
さかなは言葉を失った。

なにもない

緑色をしたなにもない世界だった。生き物もなにもない、無機質な世界。風景すらない。いや、ただ一つ目の前になにかの小さな建物がある。
「時間すらない、終わった世界、かのう。」
満は歩いていく。さかなはついていく。
「その昔、いや大昔に人間は時間と空間すら支配する力をもった時期があるらしい。そして人間はなにかとてつもなく強大なものと戦争をしたようだ。」
「それは‥‥何なのですか?」
「ばかばかしいのだがな、わしが見つけたもので推測できるといったら。人は何と戦ったというと。」
「?」
「月、じゃ。」
さかなは、考えられない。
「人間は、どんなに進んだ力を持っても、それを失っても、戦う生き物なのかのう。」
小さな建物の前についた。
「ライル!」
さかなは呼んでみる。答える声はないが建物の扉の中からは気配がする。

■25話 ありがとう、さようなら

「ぼくはいったい何なんだろうね。」
扉をのぞいたさかなは、ライルの背中が見えた。さかなは部屋の中に入る。
そこには、ライルとその前に橙色の結晶の中の少女がいた。
「眠っているんだ。」
ライルは静かに言う。
「ぼくの時間は止まったまま。でもこの人が目覚めたら、ぼくとこの人の時間が進む。」
「この人、ソレアっていうんだよ。なんでぼくは名前だけ知っているのかなぁ。」
「ぼくの一番古い記憶は、満じいがまだ背が高くってヒゲがない頃、壊れた建物の中で初めて会った時なんだけどね。」
満は目をふせる。
「ぼくはいったい何なんだろうね。」
「ぼくだって、ぼくだってみんなと一緒にいつまでもいたい!でも、でもそれは出来ないことなんだ。」
「みんなは時間の流れの中で生きているんだ。ぼくはそれを外側で見ているんだ。」
「満じいも『じい』じゃなかった。さかなさんはいつか『じい』になる」
「でも、ぼくは?」
「ぼくはいったい何なんだろうね。」
「それでも、ぼくは幸せだった。満月亭があって、満じいがいてさかなさんがいて。楽しかった。」
「いろんな事を覚えたよ。いろんな事をしてみたよ。笑ったりもしたし、泣いたりもしたし、怒ったりもした。」
「でも、みんな、みんなぼくを置いていくんだ。」
「ぼくは‥‥いったい何なんだ
  「お前は、ライルは私らの家族だ!私の友達でもあり兄弟だ!」
さかながライルの言葉を遮り叫んだ!
  「満月亭なら、また建てればいいじゃないか!街に出るなら出てみればいいじゃないか!お前と満さんは家族だ。どんなになっても、どんなになっても!」

「出よう。満月ヶ原が私らの世界だ。」
さかな、満、ライルは建物を出て出口に歩く。
さかなが扉をくぐる、満がくぐる。

「ライル?ライル!」
ライルが緑の世界から出てこなかった。扉がゆっくりと閉まってくる。手を差し入れるがなぜなのか、見えない壁がありはじかれる。その奥には泣いているが笑顔のライルがいた。

「ありがとう、さようなら。」

それがライルを見た最後だった。扉は固く閉じ開くことはなかった。

■第26話(最終話) あしたのうた

私と満さんはしばらく満月ヶ原に留まったが、やがて離れ私の故郷、パンプエールに移った。
数年後に満さんは長い生涯を閉じた。複雑で奇妙な時間の中を生きた男は、その最期もやっぱり複雑な顔だった。ヒゲに隠れて、よくは見えなかったが。
私は、この奇妙な体験を学者としては発表する気にはなれず、作家として物語として世に出した。小さな駅の不思議な宿の話『満月亭小駅物語』だ。
せめて、あの僻地で起こった記憶を生きた証を残しておきたかったのだ。

(年を取ったさかな)
黄昏れた人の時代、私の故郷は遠く離れてはいても数年に一度は満月ヶ原を訪れて、あの少年が消えた扉の前に立つ。なにを期待しているのか耳を峙て(そばだて)聞いてみる。なにも聞こえはしないが、この向こうには必ずあの時間の外にいる子がいるのだ。

「ありがとう、さようなら。」

今でも聞こえる記憶の底にある声。
私はここを去る時、あの子の言葉をいつも呟く。

「ありがとう、さようなら。ライル。」

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 ・何万年後かの満月ヶ原。もうそこは草原でなし、天まで届くような大きな樹の深い森になっていた。
いきなり飛び出してきたのは、なんだかライルを小さくしたような男の子だった。サイズが大きいニワトリを棒で追っかけてひっぱたいている。ニワトリはたまらない表情だ。
そこに、でかいニワトリの上に乗った大人が現れる。やれやれといった表情で、子どもに話し掛ける。
「ドン・ピアニシーモをいじめるなといっているだろう?」
「おとうさん」
駆け寄って、見上げながら父に話し掛ける。目深に帽子をかぶった姿は表情こそ分かりづらいが、微笑んでいる。抱き上げて、ニワトリに乗せる。

「さぁ、おかあさんが待っているぞ。」
駆け出した鳥の先には、森の底に注ぐ光に映えた家が見えた。


  満月亭小駅物語 おわり


■■いろんな謎について■■

・ガロデベルタの羽根って?
別のシナリオで重要な物品だったが、この話しの流れだと「満月亭の現金収入」になっちゃった。
 

・橙色の物質って?
ソレアを包んでいる石の色が橙色、ということで謎含みの物質ということにした。

・テルビオ・ビブレイの女の子(ソレア)って?
ライルと同じ性質をもった種族の女の子。年の頃は9〜10才。

・なぜライルと満はあんなさみしい満月ヶ原にきた?
仲間の勧めで、人気のいない野っパラを隠遁生活の場所にした。

・時空回廊って?
ライルの持っている「時間に関するエトセトラ」の力で開いた時間と空間を飛び越えた場所に繋がる通路。

・遺跡って?
昔、5万年前に地球の文明と月に渡った文明とが衝突したなごり。月が独立して地球を離れようとしたが、そりゃないよと地球が阻止しようとした戦い。両者、徹底的な痛み分けで勝者なし。

・ライルって?
満からもらった名前。スペイン語で「線路」という意味。
この話では「線路、道筋」という意味を付けている。永遠に生きる彼にはぴったりな名前。

・ライルの年齢、満の年齢って?
ライルの発生は5万年前。何かの理由で眠って起きたのが満に発見されたとき。256人の仲間がいたが、結局物語本編の時代より100年前の世界戦争で只一人生き残った。仲間の命やら時間を全て背負ったライルは時間が止まってしまった。
その後、ソレアが発見される。しかし、彼女は眠ったまま。ライルの時間は進まない。

満がライルらを発見したのが、38才の頃。それから約100年ライルの力で時間の進み具合が遅くなって生きてしまう。

・満のライルに対する贖罪って?
自分の名声欲やらいろんな煩悩の為に、墓所を暴いてライルらを連れ出した。それで、結果人類が半分になるくらいのとんでもない世界戦争を引き起こした事を悔やんでいるのだ。眉間にしわがよるやら、ヒゲが生えて急に老け込むくらい悩む。
で、時々ライルが昔の記憶がどれくらいあるのか心配で心配で堪らなくなる。
結局、ライルは満と初めて会った時から記憶があると自分で言っていたが、はたしてそれは本当か?仲間が殺された所とか自分が酷い目にあわされた時とか覚えていたのではないかしらん。だとしたら、ライルは仏様のように寛容で心が広い子である。

・なぜ『満月亭』っていう宿屋をひらいた?
客が殆ど来ないが、それはそれとしてこの隠遁生活を少しでも楽しいものにしょうと考えたその一環。切っ掛けは線路の遥か北の要塞からきた親子との大宴会。酔った勢いで始めたのだ。

・最終回について
何万年後かの満月ヶ原、といってももう大森林になっているが、そこの元満月亭があった場所に家を作って住んでいるのが、ライルと息子。と、いうことは嫁さんがいるという事で、もちろんそれはソレア。どうやったのか、ライルはソレアの救出に成功して、ライルの時間が少しづつだが進み出す。莫大な時間をかけて成長した彼等に子宝が舞いおりる。ライルにそっくりな男の子と、物語には出て来てないが女の子もいる。
名前は、「ペズ」と「マナ」。ペズはスペイン語でさかなという意味で、マナは満(man)を女性名詞(mana)にしたもの。さすがに何万年もたちゃライルの記憶も惚けてきてしまうが、さかなと満や満月亭の事は、頭をふったら忘れてしまいそな記憶になってきてしまったが覚えている。その証拠にライルはお気に入りの帽子を目深に被るのがスタイルになっている。

◇箇条書き(これは23話を書く前に書いた骨組み)

 ・ソレアの部屋
石の中に少女がいた。それは、テルビオ・ビブレイで見たあの少女だ。目は閉じて眠っているように見える。
■第24話
 ・ライルと満月ヶ原の秘密。
ライルは「時を司る『何か』の最後の生き残り。全ての仲間の命を背に受け、完全に時間の止まってしまった、つまり永遠に生きる子。
ソレアは、石の中で眠り続ける少女。この娘が目覚めたら、ライルとその娘の時間が少しづつだが進んでいく。
満は、その昔の贖罪でその娘を起こそうと努力するが失われた科学の力は如何とも戻り難く失敗に終わる。満月亭にあった薬品がなくなった今、もうどうしようもないのだ。

■第25話
 ・時間の止まった子は、さかなと満がソレアの部屋から先きに出ていったのを見計らって、その扉を閉めた。それは、3人にとって永遠の離別であった。ライルはこれ以上、満のように時間に苦しむ人間を作りたくなかったのだ。

さかなは何年かに一度は、満月ヶ原にやってきてその扉を開く時を待つ。